2025年以降の住宅ローン変動金利はどうなる?低金利時代が終焉する場合の対策も解説
更新日:2024年11月
2024年は日本にとって大きな金利転換の年となりました。2024年3月19日の金融政策決定会合で、日銀はマイナス金利を解除、同年7月に0.25%の利上げを行いました。9月、10月の同会合では利上げは見送られたものの、12月、そして2025年以降の金利動向が気になるところです。本記事では、住宅ローンの金利に影響を与える日銀の金融政策の動向、政策金利がどのような事柄に影響を受けるのか、さらには金利が上がってしまった場合の対策について解説します。
目次
一般的な住宅ローン金利の決まり方
金融政策の解説に進む前に、まずは住宅ローンの金利の決まり方について解説します。この点を理解することで、金融政策の変更があった際に、住宅ローンの金利にどのような影響が出るのかを、予見できるようになります。今後の金利動向が第一に気になる方は、この項を飛ばして「今後の金利の動向について」の項に進んでください。
住宅ローンの金利には大きく分けて、変動金利と固定金利があります。変動金利は「短期金利」の影響を受けます。一方、固定金利は10年物国債の金利に代表される「長期金利(長期国債の金利)」の影響を受けます。
まず、金融機関は短期金利または長期金利を参考にしながら、タイプごとの住宅ローンの基準金利を決めます。そして、多くの金融機関では、基準金利から「引き下げ幅」を差し引くことで、実際に利用者が借りるときの住宅ローンの金利である「借入金利」が決まる仕組みになっています。
住宅ローンの金利タイプとメリット
住宅ローンの金利タイプには、変動金利タイプ、全期間固定金利タイプ、固定金利期間選択タイプの3種類があります。ここではそれぞれの金利タイプの仕組みとメリットについて解説します。
変動金利タイプ
変動金利タイプの住宅ローンは、金利が一定期間ごとに見直されます。メリットは、一般的に固定金利よりも金利が低く設定されている点が挙げられます。
しかし、デメリットとしては、市場金利が上昇した場合には返済金利が上がり、毎月の返済額が増えるリスクがあります。また、金利の上下によって返済額が変動するため、返済計画が立てづらくなります。
金利が低い状況を活用し、短期間で返済することが可能な方や、金利変動リスクを受け入れられる方に向いています。
全期間固定金利タイプ
全期間固定金利タイプの住宅ローンは、契約期間中一定の金利が適用されます。そのため、金利変動のリスクがなく、毎月の返済額が変わらないというメリットがあります。住宅ローンは長期の借入であるため、将来金利が上昇する可能性に不安を感じる人にとっては安心な選択肢となります。
しかし、デメリットとしては、当初の金利が一般的に変動金利タイプよりも高いことが挙げられます。結局変動金利が上がらない場合には、相対的に利息の総支払額が多くなるということです。
金利が一定のため、計画的な返済がしやすく、月々の支払額が変わらない安定感を求める人に向いています。
固定金利期間選択タイプ
固定金利期間選択タイプは、契約者が固定金利の期間を選択できる住宅ローンです。固定期間が終了すると、その時点の金利で再度固定期間を選択するか、変動金利に切り替えることができます。借入当初の固定金利は全期間固定金利タイプよりも低い傾向があるため、借入時の金利を抑えられるというメリットがあります。
また、固定金利期間選択タイプは、比較的高い金利で借りている方が借り換えをする際に有効です。借り換え前の金利よりも低い金利タイプを選択することで、毎月の返済額を抑えられる可能性があり、一定期間は金利上昇リスクがないからです。
デメリットは、固定期間が終了した際に金利が上昇している場合に、返済額が増える可能性があることです。
各金利タイプは金融機関ごとに適用金利や条件が異なるため、比較検討し選択することが重要です。
住宅ローンの金利タイプを選択する際のポイント
住宅ローンの金利タイプを選択する際のポイントは、各金利タイプの特徴を理解することと、ライフプランに合わせた金利タイプを選ぶことです。
金利タイプ別の特徴を理解する
金利タイプ別の特徴を理解するために、下記の表にまとめました。
変動金利タイプ | 全期間固定金利タイプ | 固定金利期間選択タイプ | |
---|---|---|---|
特徴 | 定期的に金利が見直される | 全期間金利が固定されている | 借入時に固定金利期間を選択する |
メリット | 比較的借入金利が低い | 金利が上昇し返済額が増加するリスクがない | 全期間固定金利タイプと比較すると当初の固定金利期間の金利が低い |
デメリット | 金利上昇リスクがある | 比較的金利が高い | 当初の固定金利期間が終了すると金利が上昇する可能性がある |
ライフプランに合わせた金利タイプを選ぶ
ライフプランに合わせた金利タイプを選ぶポイントは、まず自分の収入や支出、ライフイベントなどの将来の見通しを考慮し、返済計画を立てることです。全期間固定金利タイプは金利上昇リスクを避けられるため、将来の支出が増える可能性がある場合やリスクを抑えたい場合に適しています。
変動金利タイプは、低金利を生かして返済額を抑えられますが、目先の金利の低さだけで判断するのではなく、金利上昇に耐えられるかどうかも判断基準になります。
固定金利期間選択タイプは、支出の多い時期の返済額を確実に抑えたい場合に有効です。
2025以降の金利の動向について
先々の金利を考える前に、まずは足元の金利を確認します。2024年7月30日、31日の金融政策決定会合で、日銀は短期金利の政策金利である「無担保コールレート(オーバーナイト物)」を同年3月に設定した0~0.1%から、0.25%に引き上げました。9月、10月の同会合では政策金利は変更されていませんが、先述のとおり短期金利は住宅ローンの変動金利に影響するため、日銀の利上げによって、変動金利の基準金利を上げる金融機関も見られています。(2024年11月時点)
利上げをしたとはいえ、下記の表からもわかる通り、2024年11月現在、他の先進国の政策金利水準と比較すると日本の政策金利はまだまだ低水準にあります。
2024年11月8日時点 | |
---|---|
米国 | 4.50%~4.75% |
欧州(ユーロ圏) | 3.25% |
イギリス | 5.00% |
オーストラリア | 4.35% |
日本 | 0~0.25% |
ちなみに、上記表のうち、米国の中央銀行(FRB)は9月18日に0.5%の大幅利下げ、ユーロ圏の中央銀行(ECB)は2024年6月、9月、10月に0.25%の利下げ、イギリスの中央銀行(BOE)は8月に0.25% の利下げを行なっており、日銀の金融政策は他の先進国の中央銀行の金融政策と逆の動きをしている状況です。
このような状況下で、日本の政策金利は今後さらに上がっていくのでしょうか。それを考えていくために、2024年の日銀の金融政策の内容を時系列で見ていきます。
日銀の金融政策とマイナス金利解除・利上げ
日銀は2024年3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除、同年7月に利上げを決定しました。7月の金融政策決定会合の主な決定事項は以下のとおりです。
【2024年7月金融政策決定会合の主な決定内容】
- 短期金利について、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.25%で推移するように促す。(=短期金利の政策金利を0.25%とする)
- 長期金利について、長期国債の借入予定額を減額する。
この発表の意味を短期金利と長期金利に分けて解説していきます。
短期金利の政策について
2024年の日銀の短期金利(住宅ローンの変動金利に影響)に対する金融政策の推移は以下のとおりです。
金融政策決定会合の時期 | 短期金利の金融政策内容 |
---|---|
2024年1月23日 | 日銀当座預金残高のうち政策金利残高に ▲0.1%(マイナス金利)を適用する。 |
2024年3月19日 | 無担保コールレート(オーバーナイト物)を0~0.1%で推移するように促す。(=マイナス金利終了) |
2024年4月26日 | 3月から変化なし。 |
2024年6月14日 | 3月から変化なし。 |
2024年7月31日 | 無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.25%で推移するように促す。(=利上げ) |
2024年9月20日 | 7月から変化なし。 |
2024年10月31日 | 9月に引き続き7月から変化なし。 |
このように時系列に見ると、日銀は矢継ぎ早に利上げを決定しているのではなく、まずはマイナス金利を解除し、その後様子を見てから利上げに動いていることがわかります。
2024年10月31日の金融政策決定後には以下のコメントを出しており、昨今の日本経済は日銀が望む「2%の物価安定の目標」に向かっていく様子が伺え、外部要因等のリスクもあるものの、経済と物価が日銀の想定どおりに推移した場合には、さらなる利上げの可能性は排除できないことがわかります。
わが国の景気の現状ですが、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復していると判断しました。先行きについては、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、 所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられます。
次に物価ですが、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足元は 2%台半ばとなっています。先行きは、2024年度に2%台半ばとなった後、25年度および26年度は、概ね2%程度で推移すると予想しています。
(中略)
金融政策運営は、先行きの経済・物価・金融情勢次第ですが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえますと、今回の展望レポートで示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する 確度に及ぼす影響を見極めていく必要があります。
日銀は日本の実質金利(名目金利に物価変動を反映した金利)が他国と比べて低水準であることに言及しているため、物価の上昇は利上げの要因になり得るといえそうです。物価の推移については後述します。
長期金利の政策について
2024年の日銀の長期金利(長期国債の金利)に対する金融政策の推移は以下のとおりです。長期金利は住宅ローンでは固定金利に影響します。
金融政策決定会合の時期 | 長期金利の金融政策内容 |
---|---|
2024年1月23日 | 10年もの国債の金利が0%程度で推移するように、上限を設けずに長期国債の買い入れを行う。(イールドカーブ・コントロールの実施) |
2024年3月19日 | 3月までと同程度の金額(月6兆円程度)の長期国債の買い入れを継続。(イールドカーブ・コントロールは終了) |
2024年4月26日 | 3月から変化なし。 |
2024年6月14日 | 次回金融政策決定会合時に、長期国債の買い入れ額の減額計画を決定するとした。 |
2024年7月31日 | 長期国債の買い入れ額を4半期ごとに4,000億円ずつ減額し、2026年1~3月には月間買入額を3兆円程度にする。 |
2024年9月20日 | 7月から変化なし。 |
2024年10月31日 | 9月に引き続き7月から変化なし。 |
表中に出てくるイールドカーブ・コントロールとは、長短金利操作付き量的・質的金融緩和のことです。中央銀行が短期金利を操作するのは一般的ですが、日銀は2024年3月までは、長期金利も国債を買い入れることで操作していたということです。
イールドカーブ・コントロール終了後も、日銀はそれまでと同規模の長期国債の買い入れ策を継続していますが、2024年7月の金融政策決定会合で、買い入れ規模を縮小することが決まりました。
国債の金利の仕組みは「国債の価格が上がる=金利が下がる、国債の価格が下がる=金利が上がる」となります。日銀の買入額が減少する傾向にあるということは、長期国債の金利が上昇する可能性もあるということです。もっとも、国債の金利は本来市場で形成されるものなので、日銀が国債の買い入れ額を減少させるからといって、必ずしも長期金利が上がるわけではありません。
マイナス金利解除後の変動金利はどうなるのか
先述のとおり、日銀はマイナス金利を解除後、利上げに動いています。利上げによって短期金利が上昇するとしたら、住宅ローンの変動金利はどうなるのでしょうか。将来の変動金利の行方を予想するためには、基準金利からの引き下げ幅と日銀の今後の金融政策に注目する必要があります。
まず、基準金利からの引き下げ幅については金融機関同士の競争が続く限りある程度の高止まりが期待できます。住宅ローンは、金融機関にとって、個人のお客さまに提供している重要な金融商品の1つです。
各金融機関で顧客の争奪戦が続いており、一定の引き下げ幅は維持されるでしょう。仮に引き下げ幅が縮小された場合でも、既に住宅ローンを借りている方の引き下げ幅は変更にならないのが一般的です。
次に日銀の金融政策に影響を与える物価の情報を確認しておきましょう。総務省統計局が発表した2024年9月分の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比プラス2.4%となっており、実は、日銀の目標であるプラス2%を超えています。
しかも、年2%以上の物価上昇は一時的なものではなく、2022年中から継続的に起きている現象です。下記グラフからわかるとおり、総合指数、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数でも同様の傾向が見られています。このような傾向から、日銀がマイナス金利を解除、さらに利上げを継続したとしてもそれは自然なことだと受け止められます。
日銀の物価見通し
日銀は1月、4月、7月、10月に、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)というレポートを発行しています。展望レポートには、数年後までの物価の見通しが書かれているため、金融の専門家や報道関係者等が注目しています。
下記の表のとおり、2024年10月31日リリースの展望レポートでは、先々の消費者物価指数は、前年同月比で2%弱をキープする見通しになっています。
消費者物価指数 (除く生鮮食品) |
消費者物価指数 (除く生鮮食品・エネルギー) |
|
---|---|---|
2024年度 | 7月時点 +2.5%~+2.6% <+2.5%> 10月時点 +2.4%~+2.5% <+2.5%> |
7月時点 +1.8%~+2.0% <+1.9%> 10月時点 +1.9%~+2.1% <+2.0%> |
2025年度 | 7月時点 +2.0%~+2.3% <+2.1%> 10月時点 +1.7%~+2.1% <+1.9%> |
7月時点 +1.8%~+2.0% <+1.9%> 10月時点 +1.8%~+2.0% <+1.9%> |
2026年度 | 7月時点 +1.8%~+2.0% <+1.9%> 10月時点 +1.8%~+2.0% <+1.9%> |
7月時点 +1.9%~+2.2% <+2.1%> 10月時点 +1.9%~+2.2% <+2.1%> |
同展望レポートには下記のような記述もあり、消費者物価指数の上昇は、コストプッシュ要因だけでなく、需給ギャップの改善や賃金上昇といった消費の強さも原因となって、底堅く推移する見通しになっています。
物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024年度に2%台半ばとなったあと、2025年度および2026年度は、概ね2%程度で推移すると予想される。既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。
国内外の物価上昇の原因
前述の展望レポートの引用文から、日銀は、原油価格などによる輸入物価の上昇という外部環境要因と、需要や賃金の伸びといった内部環境要因の両方を注視していることがわかります。
輸入物価が原油の影響を受ける理由
輸入物価の上昇には、原油価格が大きく影響しています。それは日本の輸入品の中で、原油が最も大きな割合を占めているためです。
1位 | 2位 | 3位 | |
---|---|---|---|
2015年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 衣類・同付属品 |
2016年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 衣類・同付属品 |
2017年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 衣類・同付属品 |
2018年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 衣類・同付属品 |
2019年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 衣類・同付属品 |
2020年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 医薬品 |
2021年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 医薬品 |
2022年 | 原粗油 | 液化天然ガス | 石炭 |
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、地政学リスクから原油価格が上昇しました。しかし、同年6月~7月に原油価格は落ち着き始めました。下記のとおり、日本の輸入物価指数も2022年の後半以降は一旦落ち着き、2024年中はアップダウンが見られます。今後の輸入物価の動向が気になるところですが、資源価格は主に海外の市場で形成されているため、予想は困難を極めます。
「利上げをすると円高ドル安になるため輸入物価を抑える効果があるのでは?」という意見もありますが、為替レートは日本の金利だけでなく、海外の金利の影響も受けること、為替変動は輸入物価の1つの変動要因にしか過ぎないことから、「日銀の利上げ=輸入物価の低下」という法則が成り立つわけではありません。
賃上げの状況
賃金の上昇は、消費者物価指数に2つの意味で寄与します。1つは企業のコスト増として、もう1つは購買力の増加、すなわち需要の増加です。日銀は、展望レポートで賃金が物価にもたらす影響を下記のように記載しています。
企業の賃金・価格設定行動は積極化してきているが、今後、販売価格に賃金動向を反映する動きがどの程度広がるかには、引き続き不確実性がある。中心的な見通しでは、賃金と物価の好循環が引き続き強まっていくことを想定しているが、中小企業を中心に賃金上昇の価格転嫁は容易ではないとの声も引き続き聞かれており、販売価格の上昇が限られる可能性もある。わが国では長期にわたり賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が社会に定着してきただけに、先行き、輸入物価からの価格転嫁の影響が減衰していくもとで、賃金上昇分を含め販売価格への転嫁の動きが弱まることがないかも注視していく必要がある。
下記、連合のプレスリリースの引用文からわかるとおり、2024年の春闘では高い賃上げが実現できています。
2024 春季生活闘争では、連合が賃上げに改めて取り組んだ2014年以降では最も高く、1991年以来となる定昇込み5%台の賃上げが実現した。定昇除く賃上げ分は過年度物価上昇率を上回った。デフレマインドを払しょくし、わが国経済社会のステージ転換をはかる正念場であるとの時代認識を労使で共有するとともに、物価高による家計への影響、人手不足による現場の負担増などを踏まえ、産業・企業、さらには日本経済の成長につながる「人への投資」の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉し、主体的に大きな流れを作った結果と言える。ステージ転換に向けた大きな一歩として受け止める。
しかし、同文献では下記のような記載もあり、大企業だけでなく、中小企業の賃上げの状況も注視する必要がありそうです。
中小組合も昨年より1.22%ポイント上昇し、全体的に健闘しているが、全体平均を下回っている。
2025年の春闘の行方が気になるところではありますが、それを見る際には、日本の企業の99%を占めるといわれている中小企業の賃上げと価格転嫁の状況も見落としたくないポイントです。
ここまでの解説をまとめると、「原油などの輸入品価格の上昇は国内の物価に影響を与える」、「国内の賃金上昇は、販売価格や需要の押上げ要因になるため、物価上昇に寄与する」ということになります。国際情勢の波乱は、日本人にとっても無関係ではないことと、ベースアップによる賃上げは、働く人々にとって明るいニュースではあるものの、同時に日銀がさらなる利上げを判断するための足固めにもなっているということを認識しておきましょう。
固定金利の状況
ここまで住宅ローンの変動金利に影響を与える政策金利に対する利上げ要因を解説してきました。続いて固定金利の変動要因である長期金利についても解説します。
まず、固定金利についても、金融機関同士の引き下げ幅競争が行われている点については変動金利と同じです。固定金利は変動金利より先行して上がるといわれています。その原則どおり、2022年以降固定金利は上昇傾向にあります。その理由は長期金利(10年物国債金利)の上昇にあります。前述の通り、固定金利の基準金利は長期金利によって決まります。そのため、長期金利が上昇すると、固定金利も上昇します。下記グラフは、長期金利と住宅金融支援機構が提供する固定金利型の住宅ローン【フラット35】の金利を並べたものです。
グラフからも、長期金利と【フラット35】の金利は概ね連動していることがわかります。一般的に、長期金利(10年物国債金利)の変動は、債券市場に委ねられていますが、先述のとおり、日本では日銀が10年物国債を買うことで、長期金利を一定の範囲に抑えるイールドカーブ・コントロールといわれる政策を行い人為的に長期金利の上昇を抑えていたということです。
マイナス金利解除を決めた2024年3月19日の金融政策決定会合では、イールドカーブ・コントロールの終了も宣言されました。
長期金利の急上昇を抑えるためもあってか日銀は国債を引き続き買い入れるとしていますが、その金額は減額の方向に進んでおり、ある程度は市場の価格形成機能に委ねられる形になりました。
市場に価格形成が委ねられている以上、今後は株価を予測するのが難しいのと同様に、長期金利の行方を予測するのも難しいといえます。
2024年中の長期金利は、上下に変動しており長期金利の方向性は掴めていません。
ただ、金利の先高感が強くなってきた際には、10年もの国債が売られることで、長期金利が上昇する可能性はあります。
イールドカーブ・コントロールが有効だった時期は、長期金利の急上昇のリスクは低いものでした。日銀という大きな買い手が国債価格の下落を抑えていたからです。今後、徐々に国債の買い入れ額が減額されていくことが決まっているため、長期金利は変動幅が高まることで結果的に一段階高い水準に到達しても不思議はありません。
賃金上昇は継続するのか
政策金利、長期金利、両方に影響を与えるのが物価です。安定的に年2%の消費者物価指数の上昇を実現させるためには、賃金の持続的な上昇が必要です。賃金が上昇することで、需要が喚起され結果的に物価上昇に繋がるからです。しかし、下記グラフを見てわかるとおり、日本の労働者の賃金は、ほとんど上昇してきませんでした。2023年、2024年の春闘の賃上げの結果は勢いのあるものでしたが、このような状況が継続するかどうかが、今後の金融政策に影響するため、注目されています。
ちなみに、求人数が求職者数を上回る状態は続いているものの、有効求人倍率は2022年~2023年にかけてピークアウトしており、賃金上昇の行方にリスクがあることは否定できません。
金利が上がる場合の対策
物価の行方によっては、今後も利上げの可能性はあります。ゆえに金利が上がってしまった場合を想定し、対策を取れるようにしておくことが大切です。金利上昇に対しては、以下の対策が考えられます。
- 繰上返済の資金を残しておく
- 借り換えを検討する
繰上返済の資金を残しておく
繰上返済は期間短縮型で行うと返済期間が短くなります。住宅購入時には、手元の資金を頭金としてめいっぱい使ってしまう方が少なくありませんが、手元資金を残しておくと返済計画に余裕を持たせることができます。
借り換えを検討する
高い金利から低い金利の住宅ローンへの借り換えは住宅ローンの総返済額を減らす効果があります。住宅ローンの返済時に金利が上昇すると影響を受けるのは、主に変動金利で借りている方々です。一般的な変動金利だけでなく、固定金利期間選択タイプで住宅ローンを借り、当初の金利引き下げ期間終了に伴い自動的に変動金利に移行されている人も要注意です。比較的高い金利に変更になっている可能性が高いからです。ご自身の借入金利を確認してみましょう。
適用されている金利が高いと感じる人は、より金利が低い住宅ローンに借り換えを行うことで、総返済額を下げられる可能性があります。
なお、住宅ローンの借り換えの際には、事務手数料や登記関連費用などの諸費用がかかるので、それらを含めても経済的メリットがあるのかを確認しましょう。自身で計算が難しいと感じる方は、オンライン相談を利用するのもおすすめです。
借り換え時に団体信用生命保険を強化できる可能性がある
借り換えのメリットは、総返済額の削減だけではありません。団体信用生命保険(団信)を強化できることがあります。団信の保障内容は一般的に「死亡・高度障害」です。つまり、病気や高度ではない障害状態は保障されていないということです。
最近は、ガンと診断されただけで、住宅ローンの残債が保険金によって返済されるガン団信や所定の介護状態になった場合に同じく保険金で残債が返済される介護保障付きの団信も見受けられます。
現在借りている住宅ローンの金利が、高いと感じる方は借り換えによって借入金利を下げるだけでなく、団信を強化できるかもしれません。
金利が上がる前提でシミュレーションをしておく
金利が上がるか上がらないかをいくら考えても、答えは未来にならないとわかりません。それならば、これから住宅ローンを借りる方は、金利が上がるのを前提に借入金額や金利プランを検討しておけば安心です。
金利が上がった場合を想定してキャッシュフロー表を作成する
金利が上がった場合の家計の収支を予測するためには、キャッシュフロー表を作成しておくことが有効です。キャッシュフロー表とは、収入と支出と貯蓄額を時系列で年表にしたものです。
変動金利で借りる方は、金利が上がった場合にどれだけ収支が悪化するかを確認することができます。
固定金利で借りる方は、変動金利で借りた場合と比較することで、固定金利の選択が合理的なのか否かを判断できます。例えば、変動金利で金利の引き上げがあった場合でも固定金利に追いつくほどの金利上昇でなければ、結果的に変動金利が有利だった、ということもあり得ます。
キャッシュフロー表を作成することで、感覚ではなく数字に基づいた選択ができるようになります。
住宅ローンシミュレーションを活用する
住宅ローンを取り扱っている金融機関のウェブサイトでは、住宅ローンシミュレーションを使うことができます。住宅ローンシミュレーションを利用することで、金利が上昇した場合に、どれだけ毎月の返済額が増加するかを計算することができます。
例えば、返済期間中に金利が1%上昇すると仮定した場合、返済開始から5年目で金利が上昇するのと、15年目で金利が上昇するのとでは、毎月の返済額の増加額は前者の方が高く、後者の方が低くなります。残債が多い時期ほど金利が上昇したときの毎月の返済金額の上昇幅が大きくなるからです。
住宅ローンシミュレーションを使えば、先に述べた繰上返済や借り換えによる経済効果も計算することができます。
固定金利と変動金利どっちが正解?
住宅ローンの返済期間は長期に渡るため、今後も利上げの可能性は残っています。このようにいうと、これから住宅ローンを借りる人は、固定金利を借りるべきか、変動金利を借りるべきか悩むと思います。一般的に変動金利の方が固定金利よりも当初の金利は低いですが、固定金利の安心も捨て難いからです。
固定金利を選ぶ際には、途中から金利が下がるように設定されている「ステップダウン金利」を選ぶのも一案です。ステップダウン金利であれば、固定金利の安心と、低金利のメリットが両立できます。もし、将来金利が上がった際には、変動金利よりも有利になる可能性がありますし、金利が上がらなかったとしても固定金利よりは有利になります。
【ステップダウン金利の金利イメージ】
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先々の金利を正確に予想できない以上、金利水準が変わらなければ金利上昇リスクがない固定金利を選択したいというのが本音だと思います。
しかし、実際に住宅ローン金利の条件を見ると、固定金利は変動金利の数倍の利率に設定されている場合もあり、最終的には変動金利を選ぶ方が多いというのが実情です。
マイナス金利が解除されたとはいえ慌てる必要はありません。日本の金利はバブル崩壊以降長期間低位水準にあるため、リスクを背負って変動金利を選んだ人が、結果的に低金利の恩恵を受けてきました。
また、選択肢は変動金利や固定金利だけではありません。先述したステップダウン金利や、変動金利と固定金利を組み合わせるミックスローンも有効な選択肢です。迷った場合は、SBI新生銀行のオンライン相談を活用してみましょう。
- CFP(R)
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- 借入期間は5年以上35年以内(1年単位)、借入金額は500万円以上3億円以下(10万円単位)です。
- 変動金利(半年型)、当初固定金利をご選択された方は、当初借入金利適用期間終了後、変動金利(半年型)が自動適用となります。
- 変動金利(半年型)、当初固定金利を利用されている方は、金利変更時に当初固定金利をご選択いただくことも可能です。ご選択にあたっては、手数料5,500円(消費税込み)がかかります。
- 各金利タイプは、金利情勢等により、やむを得ずお取り扱いを中止する場合もございます。
- SBI新生銀行ウェブサイトにて、借入金額や借入期間に応じた毎月の返済額を試算できます。
- 事務手数料は、借入金額に対して2.2%(消費税込み)を乗じた金額となります。それ以外に抵当権設定登録免許税、印紙税*、司法書士報酬、火災保険料等がかかります。*電子契約サービスをご利用の場合、印紙税は不要ですが、別途電子契約利用手数料5,500円(消費税込み)がかかります。
- ご融資の対象物件となる土地、建物に、当行を第一順位の抵当権者とする抵当権の設定登記をしていただきます。
- パワーコール<住宅ローン専用>、SBI新生銀行ウェブサイトにて商品説明書をご用意しています。
- 当行の住宅ローンを既にご利用中のお客さまにつきましては、当行で借り換えをすることはできません。
- 住宅ローンのご融資には当行所定の審査がございます。審査結果によっては、当初借入金利に年0.10%~年0.15%上乗せになる場合がございます。ご希望に沿えない場合もございますので、あらかじめご了承ください。
[2024年11月1日現在]